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zoom RSS 『笑い者 / Akihiro Mori』

<<   作成日時 : 2009/05/08 00:22   >>

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「人と人は分かり合えない。だから出来ることがある。」
数年ぶりに会った大切な友人が、別れ際に酔っぱらいながら陽気に言い放った言葉。

「あ、イイね、それ。」「それ、凄えイイわ。」久々に会っても、まったく変わっちゃいないのに。
それでも粘り強く前に進んでいる事が分かる友人の姿を見る事は、モノ凄く勇気の湧いて来るものです。

忌野清志郎、タイマーズの歌声が胸に残る一夜。

ずっと夢を見て 安心してた
僕は Day Dream Believer そんで
彼女は クイーン

http://www.youtube.com/watch?v=701CMN0kCNE

そんな友人、Morifattyが初めて世に放った創作物は、絵でも音楽でもなく、意外な事に。
あるひとつの物語でした。『free』という名のフリーペーパーに掲載された彼の作品を、
このblogにも転載させて貰いました。

『free』



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『笑い者 / Akihiro Mori』

 街のはずれには、一年中黄色いテントを張ったサーカス団がありました。
そこには、街の誰もが知っているピエロがいました。
 このピエロは、他のピエロとはひと味違っていて、いっさい化粧をしませんでした。
面白いお面もつけたりせずに、いつも素顔をさらしていました。そんなピエロは街中の笑い者でした。
 あはは。あはは。
 ひとたび笑い者が街をあるけば、行く先々で、笑いがあふれました。
とりたてて芸をするわけではありません。けれども、ピエロの姿を目にした人たちは、
思わず頬をゆるめてしまいます。子供なんて、みんな指差してげらげら笑いました。散歩の犬だって、
笑い者の横を通り過ぎる時は歯茎をみせて、なんだかにやにやうすら笑いを浮かべているように見えます。
 あはは。あはは。
 笑い者はいつだって笑いの中心で、そしていつだって誰よりも狂ったように、
腹を抱えて笑っていました。
そうして、そんな笑い者について、街の人たちは、
「あいつは、このかた苦労なんて知らないのさ。いい気なもんだぜ。」とか、
「きっと、幼い頃のご両親の育て方がすばらしかったのね。」とか、
そんな風に口々に思いを巡らせたものです。
 けれども笑い者がいつも笑っているのは、苦労を知らずに育ったからなのかは分かりません。
むしろ笑い者が知らずに育ったのは、ほんとうのお父さんとほんとうのお母さんでした。
産声の変わりに大きなあくびをした赤ん坊は、一度だって泣き声をあげることはありませんでした。
静かな赤ん坊は、まもなく使えなくなった電化製品と一緒に、不要品の回収車に引き取られて、
一番安い値段でサーカス団に売り飛ばされたのでした。

 火の輪くぐりのライオンと玉乗りの熊とは、いつも一緒。オリの隣に置かれたゆりかごでは、
猛獣たちの低い唸り声が子守唄になりました。しつけをしたのは、調教の片手間の猛獣使い。
学校には通わず、朝から晩まで芸の稽古をしました。その甲斐もあって笑い者は、
たった五才でステージデビューを果たすと、すぐに人気者になりました。
サーカスの先輩たちも、お客さんも「命が宿ったからくり人形」とか、
「あいつは生まれつきピエロなんだ。」とか、そんなふうに口々に思いを巡らせました。
笑い者は、だれの目にも幸せそうに映りました。それはきっと、人気者になったからだけじゃ
ありません。猛獣たちや、世間擦れした変わり者に囲まれた暮らしは、笑い者にぴったりでした。
そして、何より、サーカスの花形、空中ぶらんこペアの団長夫婦が、
笑い者を我が子のように可愛がりました。そうして幸せな日々は続いたのです。あの日が来るまでは。
 あの日も、大雨にもかかわらず、テントの中は満員で、サーカスの演目は
スケジュールどおり運んでいました。そして終盤のクライマックス、空中ぶらんこペアの登場に、
客席のボルテージは最高潮になりました。熟練ペアの演技はあざやかで、
空中に描かれたいくつもの放物線は、時間からも重力からも自由を許されたみたいに、
ゆるやかに流れつづけます。その心地良い流れは見るもの全ての心を支配しました。
だれもが、このままこうしていたいと流れの中をゆらめいていたら、ふいに切れた糸みたいに、
するどい直線が、真下にむかって引かれてピタリと止まってしまいました。
とたんに現実に引き戻された客たちの視線の先には、真っ赤に染まった地面に
ぶらんこペアの片われが突き刺さっていました。
 さっきまでとは、別の力が見たもの全ての心を支配して、凍ったように冷たい時間が、
静寂のなかに張付いて、だれも何も言えず目をとざしました。
 あはは。あはは。
 陽気な笑い声が、静寂を破りました。何事もなかったようにテントの中央に現れたピエロは、
スケジュールどおり自分の演技を始めました。笑い者は、いつもの調子で、
玉のようにそこいら中を思いきり笑い転げました。
 あはは。あはは。あはは。
 すると、客席からも次第に笑い声がこぼれ始めたのです。
 あはは。あはは。あはは。あはは。あはは。
 とうとう、テントの中は、笑いで包まれました。あまりの笑い者の愉快さに、
客はみんな自然と、こう思ったのでした。さっきのは、手の込んだ冗談だったんだ。
きっと、また動き出すんじゃないかなんて。
 こうして、この日の公演は、いつもどおり大盛況のうちにフィナーレを迎え、
テントを後にする客たちはみな、満足げに浮き足立っていました。公演は無事に終了しました。
けれども、地面に突き刺さった団長の奥さんは、無事じゃありませんでした。
いつもは、威厳たっぷりの団長が、人目をはばからずおいおい泣き崩れました。
だれもが、かける言葉をみつけられずにいました。
 あはは。あはは。
 のこのこと現れた笑い者は、冷蔵庫をあさり、牛乳を一気に飲み干すと、
いつものように腹をかかえて、笑いました。つかつかと笑い者に歩み寄った団長は、
力をこめた右のこぶしで、ゆるみきった頬を思いきりぶん殴りました。
「オレにとってもおめぇにとっても大切な人が、たった今死んじまったんだぞ。
おめぇには、大切なものをなくしちまった悲しみが届かないのか。出て行け。
二度と、その面を見せるな。」
 二発、三発。団長は、笑い者に次々と右ストレートをぶち込みました。
 あはは。あはは。
 テントを追い出された笑い者は、鼻血をたらたら流して、いつまでも笑っていました。

 帰る場所を無くした笑い者は、暑い日も寒い日も、ふらふらと街をさまよいました。
相変わらず、街の笑い者ではありましたが、やるべき事もなくした笑い者は、夕方になるといつも、
自分で自分のことをぶん殴りました。時にはグーで、時にはパーで。
笑い者の両手は、暗くなるまで、何度も何度も、空中ぶらんこみたいに顔のまわりを
行ったり来たりしました。どんどん顔も手もまん丸にふくれて、
それが転げ回ったりするのですから、なおさら滑稽に映りました。
それを見て街の人たちは、よりいっそう笑いました。
 あはは。あはは。
 笑い者も一緒になって笑いました。けれども世の中には、とてもとても真面目な人もいて、
大変なことが起こっていますなんて、通報してしまいました。すると、
すぐにお迎えの車が来て、プロレスラーみたいな大男たちが、笑い者を取り囲んで、
車に押し込みました。そして真面目な人は、笑い者がいなくなると、
いつものように公園の野良猫たちに、食べきれない程の餌をやりました。

 笑い者が連れて行かれたのは、街で一番大きい駅から三つ離れた駅のそばに建つ、
頭のおかしい人たちの入る病院でした。先生は、すぐに最新式の治療を開始しました。
 あはは。
 笑い者は、ピンクの部屋で、両手を縛って、注射を打っても笑いました。
 あはは。
 笑い者は、ご飯の後で、両手に一杯、薬を飲んでも笑いました。
 あはは。
 笑い者は、昼寝の時に、両手を広げて、よだれを垂らして笑いました。
 あはは。
 病院では、やる事がたくさんあるせいか、最新式の治療の効果なのか、
笑い者は、自分を殴るのをすっかりやめました。
しばらくすると笑い者は大部屋に移される事になりました。
 大部屋の人たちは、なんだかみんな浮かない顔をしていました。
それは、みんなここに来た事で、外の世界での楽しみを、奪われてしまったからなのでしょう。
 青い靴下を履いた男の子は、外の世界では、かばんを持った人を見かけると、
後ろからそおっと近づいて、かばんを盗んで逃げちゃうのが、
楽しくて楽しくて仕方がありませんでした。
 赤いパーカーを着たおじさんは、外の世界では、知らない人の家に火をつけて、
大きな炎がたてる、パチパチって音を聞くのが、楽しくて楽しくて仕方がありませんでした。
 黄色いマフラーを巻いた女の子は、外の世界では、人の集まるにぎやかな場所で、
素っ裸で歌いながら駆け回るのが、楽しくて楽しくて仕方がありませんでした。
 ここには、そんな自由はありません。そのかわりに何ひとつ不自由もありません。
けれどもみんな浮かない顔をしていました。先生たちは、仕方ないさ、
ここにいるほうがこの人たちは、幸せなんだなんて、わかったような事をいいました。
先生は先生なりに出来る事は、すべてやり尽くしていたのでしょう。
 あはは。あはは。

 今日から笑い者は大部屋です。笑い者はいつもの調子で、腹を抱えて笑い転げました。
ごろんごろんと笑い転げました。
 あはは。あはは。
 するとどうでしょう、さっきまで浮かない顔をしていた大部屋の人たちから、
だんだんと笑いがこぼれてきました。
 あはは。あはは。あはは。あはは。
 そうして、しばらくすると部屋中が笑いにつつまれました。奇跡だ。なんて言って。
 あはは。あはは。
 笑い者は笑いました。笑い者が、なんでいつも笑っているのかはわかりません。
笑い者には何も見えていないようでもありましたが、何もかも見えているようでもありました。
けれどもそんなことはどうでも良いのでしょう。
 笑い者はいつだって笑いの中心で、そしていつだって誰よりも狂ったように、
腹をかかえて笑っていました。
 あはは。


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
森君、久しぶりだね。宮田氏も着実に進んでいるね。気づけば30 years old
間近。遊びで動画やってます。YouTube rakudamovie で検索。
BigEye
2009/05/12 00:56
Hi,BigEye! ご無沙汰だね。

そうそう、2009年はやっぱ、「さようなら二十代
&こんにちは三十代」であって。特別な季節だよね。
森君は今後も、新しいお話を発表するようだよ。

rakudamovie、観たよ。Cotswolds(URL)がイイねえ。
ゆきのちゃんの演技もなかなか堂に入っているし、
相変わらずの大目ワールドが、UKでも炸裂だね(笑)。
にしても。Great Britainは、俺等の青春の故郷だな〜、
やっぱ。そのうち、新録音を送るよ!
miyata
URL
2009/05/13 15:57

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